• 鳥取県立倉吉高等技術専門校 コンピュータ制御科 川口哲一・加藤 明
はじめにお読みください。
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4.3 アナログ-ディジタル変換回路

各種センサに代表されるように,従来からアナログ-ディジタル変換(以下,「A/D変換」という)は,アナログ信号をコンピュータなどによりディジタル処理する手段として,主に計測・制御の分野において重要な役割を担ってきた。さらに,近年ではマルチメディア時代の到来により,画像データ,音声データなどさまざまな情報がコンピュータ処理の対象になっており,その重要性は増すばかりである。マイコン実験装置には,その基礎となるシステムおよび制御技術を学習するためのさまざまな機能が備えられており,効率良く知識,技術を習得することができる。ここでは,インターフェース回路の紹介の最後の節としてA/D変換回路について説明する。

(1) AD574Ajについて

A/D変換システムにおいて,中心的な役割を担うのがA/Dコンバータであり,本装置ではアナログデバイセズ社のAD574Ajを使用している。以下にその特徴を示す。

●12ビットA/Dコンバータ

この素子は分解能12ビットの逐次比較型A/Dコンバータであり,アナログとディジタルの両機能がワンチップに納められていることから,外部回路を使用することなく完全な信号処理を実現する。図21に一般的な逐次比較型A/Dコンバータのブロック図を示す。逐次比較方式では,アナログ入力信号とD/Aコンバータにより変換された基準信号をコンパレータにより比較し,一致したD/Aコンバータ出力のディジタル値が格納されている逐次比較レジスタの値を,求めるディジタル出力信号とする。図22に逐次比較方式の動作原理を示す。まずはじめに逐次比較レジスタの最上位ビット(2nビット)に1をセットして,D/A変換したアナログ信号と入力信号を比較する。このとき,入力信号が比較信号よりも大きければ,最上位ビットに1をセットし,逆の場合には0をセットする。これらの動作をクロックに同期してすべてのビットに対して繰り返し,最終的にアナログ入力信号レベルと一致した逐次比較レジスタの値をディジタル値として出力する。この逐次比較方式は,速度,精度などの点において現時点で最もバランスのとれた変換方式といわれており,実際に多くのシステムに使用されている。

図21
図21
図22
図22

●AD574Ajの回路動作

コンピュータからデバイスに変換開始信号が入力されると,コントロール部がその命令を受け取り,クロックをイネーブルにし,逐次比較レジスタに初期値を設定する。逐次比較レジスタはクロックに同期して最上位ビットから順次信号を生成し,D/A変換部へ情報を送る。D/A変換部によりアナログ化された信号と外部より供給された被変換信号の電流値をコンパレータにより比較し,最下位ビットまで変換が終了すると,ディジタルコードをラッチして変換終了信号をコントロール部へ送る。変換が終了すると,コントロール部はクロックをディスイネーブルにするとともに出力ステータス信号をアクティブにして待機状態となる。

そのほかにもAD574Ajは,比較用電流を生成するためのD/Aコンバータを内蔵していること,ユニポーラ,バイポーラの各種アナログ信号入力レンジを提供していることなど,いくつかの特徴を有している。

(2) A/D変換回路について

図23にマイコン実験装置に組み込まれているA/D変換回賂の代表例を示す。この回路は,A/D変換素子のほかに,オペアンプ回路(AD712),マルチプレクサ回路(AD7503),サンプル/ホールド回路(AD582)より構成されている。オペアンプ回路は微小入力信号を変換可能なレベルまで増幅するためのものであり,ジャンパSWの切り換えにより1倍,10倍,100倍の3段階の設定が可能である。マルチプレクサ回路は複数のアナログ入力信号を切り換えるために使用される。本装置では表7に示すように1つのA/D変換素子に対して入力が8CHあるため,対象となる入力CHをマルチプレクサ回賂により順次切り換えて変換を行う。サンプル/ホールド回賂は,A/D変換素子が動作している間,その入力を一定に保つために使用される。A/D変換時間に対して入力信号の周波数が高く,正確な変換を行うことができないときには,この回路を使用してシステムの精度,と信頼性を確保する。

図23
図23
表7
表7

A/D変換素子の動作は、制御信号CE、CSおよびR/Cにより制御される。CEとCSの両方ともアクティブのとき、R/Cの状態により変換開始またはデータの読み込みが選択される。また12/8、A0は変換の長さおよびデータフォーマットを決定し、A0がアクティブのとき変換が開始されると12ビット変換サイクルに、それ以外は8ビットショート変換サイクルとなる。さらに、12/8端子により出力データが2組の8ビットデータか、1組の12ビットデータかが決定される。16ビットシステムでは,12ビット変換サイクルのデータフォーマットは制御用コンピュータの16ビットバスへ右詰めあるいは左詰めに接続することができる。このとき使用されない4ビットはソフトウェアによりマスクする必要がある。8ビット変換サイクルでは,8ビットバスへ左詰めでデータが転送される。A0の状態により上位8ビットと下位4ビットが選択され,各データを読み込んだあとソフトウェアによりデータシフトを行う。

本装置では12ビット変換サイクルを使用し,12ビットの出力を2個の8ビットラッチ回路により分割記憶する。このデータを2度に分けて制御用コンピュータへ転送することにより,12ビットのディジタルデータをコンピュータへ読み込む。

マルチプレクサ回路は,制御用コンピュータの8ビットデータバスの下位3ビットを使用して,入力チャンネルの選択を行う。これらのアドレスはデコーダ(74HC138)からの信号により決定される。アドレスデータと12ビットデータを分割記憶する3個のラッチ回路は共通のデータバスを使用しているため,スリーステート出力機能を有している。またサンプル/ホールド回路は,A/D変換素子のステータス信号によりデータを保持しており,A/D変換中は入力信号が更新されない。表8に基準アドレスをOFFC0HとしたときのA/D変換素子とマルチプレクサ回路のアドレスを示す。

表8
表8

(3) プログラム例

図24にプログラム開発手順を示す。本回路では,制御用コンピュータが8ビットなのに対し,A/D変換後のディジタル信号は12ビットであるため,データは2回に分けて転送する必要がある。図23に示すように,データは上位8ビット(DB15~DB8)と下位8ビット(DB7~DB0)が転送されるが,このうちDB0~DB3はGNDに接続されているため,0である。制御用コンピュータは,変換開始信号を出力したあと,ステータス信号を監視し,変換が終了すると4個の0を含む16ビットデータを読み込む。

図24
図24
図23
図23

図25にA/D変換回路の制御プログラム例を示す。これは,パラレルインターフェース回路2のポートCに接続されている最下位の押しボタンスイッチPSW0が押されると,A/D変換回路のチャンネル2に接続されている温度センサからデータを取り込み,パラレルインターフェース回路3に接続されている7segLED DSP1~2に表示し,PSW1が押されると処理を中止して終了するプログラムである。温度センサは絶対温度に比例した電流を出力するため,このアナログデータをA/D変換して求めるディジタルデータを得る。プログラムの中で,ディジタル信号は2度にわたって読み込まれた8ビットデータをつなぎ合わせ,16で除することにより12ビットデータに加工する。そのあと,求めたディジタルデータを温度データに置き換え,華氏温度を摂氏温度に変換して7segLEDに出力する。

図25
図25

5.おわりに

コンピュータ制御技術は難しいというイメージがあるのか,近年若い人には敬遠されがちな分野である。しかし,バブル崩壊,円高による不況からなかなか抜け出せない企業が多いなか,コンピュータ制御技術は自動化,省力化のための武器として,今後ますます重要度を増してくると思われる。そのため,今後はコンピュータ制御技術をより多くの人に知ってもらい,今まで以上に簡単に,早く習得してもらうための工夫が必要となってくるであろう。今回紹介した教材が,少しでもコンピュータ制御技術の普及に役立てば幸いである。

最後に,今回の執筆にあたり,鳥取県工業試験場研究員の西本弘之氏,小谷章二氏,草野浩幸氏に懇切な指導をいただき,深く謝意を表する。

〈参考文献〉

1) 西本弘之他:特集必ず身につくワンチップマイコン技術,エレクトロニクスライフ,1990,8.

2) 西本弘之他:特集ワンチップマイコン応用実例あれこれ,エレクトロニクスライフ,1991,11.

3) 小谷章二訳:インテルMCSBASIC-52ユーザマニュアル,鳥取県工業技術振興協会,1990.

4) 小谷章二他:BASIC-52ボードの開発について,烏取県工業試験場研究報告 No.12.1990.

5) アナログデバイセズ社:データ変換セミナーノート.

6) アナログデバイセズ社:DATABOOK.

7) 鈴木隆:トランジスタ技術スペシャルNo.16,A-D/D-A変換回路技術のすべて,CQ出版.

8) 太田幸雄・日々野康二:マイクロコンピュータにおけるインターフェース概論,啓学出版.

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