• 居住系の能力開発 4
  • ポリテクカレッジ沖縄(沖縄職業能力開発短期大学校) 比嘉 良美津

1.はじめに

一昨年は年当初,阪神大震災という未曾有の大災害が発生し,国民全体が防災思想の重要性を再認識させられた一年であった。その後も引き続いて大規模災害が頻発しており,平成7年度は2,356名の方々の尊い生命が火災により,奪われている。

今後,高齢化社会に向けて,火災予防対策として,より充実した平易な理解を求めた火災予防教育の必要性が求められている。

今回,自動火災警報設備模擬教材(シミュレータ)を製作し,火災予防教育の一助になればと願い,本教材の開発研究を行った。

2.火災の統計

2.1 火災の現況

平成7年度の出火件数の推移は全出火数は前年比で0.5%の減少傾向にあるが,1日当たり172件,8分21秒に1件の割合でわが国のどこかで火災が発生しているという状況である(図1)。

図1
図1

しかし,火災種別出火件数をみた場合,建物火災は前年全出火数の54.9%を占め,前年比で0.7%(71件)の増加傾向,車両火災が3.0%の増加傾向がある(図2)。

図2
図2

火災による死者数は,前年比で24.1%の増加で(ただし,阪神大震災による559人)(図3),1日当たり6.5人の尊い生命が奪われている。

図3
図3

住宅火災による死者数は高齢者(65歳以上)が53.7%(503人)と半数以上を占めている(図4)。

図4
図4

以上の火災の現況からも知り得るとおり,火災予防思想の啓蒙活動は急を要するものである。

3.火災予防教育

3.1 火災予防教育の現状

(1) 火災予防運動による住民への喚起

春季・秋季に消防庁長官通達の実施要綱により,統一標語・重点目標を作成し,防災思想の喚起,各地消防本部による病院・学校等における総合訓練・初期消火訓練・避難訓練などを図り,火災予防思想を喚起する。

(2) 防火管理者教育

防火管理制度(消防法第8条第一項)により,防火管理者をおかなければならない防火対象物(収容人員が30名以上の特定防火対象物・収容人員が50名以上の非特定防火対象物)の管理について権限を有する者(管理権限者)は,防火管理者を選任する責務があり,当防火管理者に防火管理上必要な業務を行わせるとある。

防火管理者の資格(消防法施行令第3条)により,甲種防火管理者(甲種防火対象物の管理),乙種防火管理者(乙種防火対象物の管理)の講習会を行うことにより防火管理思想を喚起する。

(3) 各地域消防機関による予防教育行政

各地域消防機関においては予防教育行政の一環として,幼年消防クラブ・婦人消防クラブ・婦人消防団等の組織化,老人クラブ等での火災予防講習,轄内小中学校における火災予防ポスター・火災予防作文などの募集を通して,火災予防思想を喚起する。

(4) 消防設備士の法定講習

消防設備士は法定講習の受講義務(消防法第17条の10・消防法施行規則第33条の17)を負う。

法定講習受講により,誠実な日常業務の遂行を図ることにより,より高度な火災予防思想を喚起する。

3.2 火災予防教育教材の現状

前述・講習会等においては財団法人日本消防設備安全センターが中心となって,図書教材・OHP・VTR教材の提供を行っている。

しかし,視覚的・実体的な教材となると乏しいものがある。

本研究においては,自動火災報知設備のシステムが平易に初心者にもわかりやすい提示教材ということで,自動火災警報設備模擬教材(シミュレータ)の製作を研究開発課題とした。

4.自動火災警報設備模擬教材(シミュレータ)の製作

4.1 模擬教材(シミュレータ)の製作コンセプト

本模擬教材(シミュレータ)は前述の火災予防教材の現状を踏まえ,下記の事項を具備する。

  1. ① 自動火災警報設備のシステム全体が網羅できるものとする。
  2. ② 作動のフローは視覚的で平易に理解できるものとする。
  3. ③ 模擬教材として,いかなる場所へも移動が容易にできる可搬式のものとする。
  4. ④ 使用電源は,容易に使用できる100V電源とする。
  5. ⑤ 操作取り扱いが要領書に従って容易に操作できるものとする。

4.2 模擬教材(シミュレータ)の構成

  1. ① 電 源:交流100V(受信機側・消火栓ポンプ側:2口)
  2. ② 受信機:P型2級受信機(回線数:5回線)
  3. ③ 総合板:発信機・鳴動ベル・表示灯
  4. ④ 感知器:熱感知器(差動式スポット型)
      :煙感知器(光電式・イオン式スポット型)
      :炎感知器(紫外線感知式)
  5. ⑤ 消火栓始動装置:交流100V
  6. ⑥ ポンプ始動表示灯

4.3 機器の配置

機器の配置を図5写真1に示した。

図5
図5
写真1
写真1

4.4 回路図

回路図を図6に示した。

図6
図6

4.5 点検用具

点検用具(写真2)は次のとおりである。

写真2
写真2
  1. ① アダプタ(自作による試料提示用)
  2. ② 煙感知器作動用試験ガス
  3. ③ 熱感知器作動用ドライヤ
  4. ④ 炎感知器作動用ライタ

4.6 動作のフロー

① 警戒状態

交流電源(ON)→蓄電池(接続)→受信機(電源ON)→蓄電池(接続)→受信機表示板内(交流電源緑灯点灯)→各階総合板→発信機→鳴動ベル→各階表示灯(点灯)

② 感知器の動作

●熱感知器
熱感知器(アダプタを介してドライヤによる加熱)→熱感知器(蓄積開始動作確認灯の点灯)→受信機(蓄積開始音発報)→受信機(蓄積中表示灯点灯)→火災地区表示灯(点灯)→主音響(鳴動)→地区音響(鳴動)
●煙感知器(光電式・イオン式)
各煙感知器(アダプタを介して煙感知器試験用ガスを噴射)→煙感知器(蓄積開始動作確認灯の点灯)→受信機(蓄積開始音発報)→受信機(蓄積中表示灯点灯)→火災地区表示灯(点灯)→主音響(鳴動)→地区音響(鳴動)

③ 発信機の動作

各階総合板発信機の押しボタンスイッチ(ON)→消火栓始動装置(表示灯点滅開始)→各階総合板表示灯(フリッカ点灯)→火災地区表示灯(フリッカ点灯)→主音響(鳴動)→地区音響(鳴動)→火災地区表示灯(点灯)→主音響(鳴動)→地区音響(鳴動)→消火栓始動表示灯(フリッカ点灯)

5.自動火災警報設備模擬教材(シミュレータ)の活用

5.1 取得知識

① 監視状態の理解

●交流電源の点灯による監視状態
●その他の表示灯(スイッチ注意・断線・故障・蓄積中)の消灯確認

② 動作フローの理解

●前述の動作フローより動作・機能の理解
●各装置の動作(表示灯の点灯・点滅・鳴動)の理解

③ 火災発生時の処置

●地区表示灯の点灯確認による火災発生箇所の認定
●主音響・地区音響の鳴動による監視区域全館への警報通知
●火災時の初期対応の理解
・火災発生場所の確認の確認
・初期消火の作業
・避難誘導の活動
・消防機関への通報の作業

④ 火災音響停止の動作

●主音響停止スイッチの操作
・主音響停止の操作
・地区音響停止の操作
・故障音響停止の操作

⑤ 故障・トラブルの音響停止動作

●スイッチ注意表示灯の点灯確認
・故障音響停止の操作
・原因の究明
●断線表示灯の点灯確認
・故障音響停止の操作
・原因の究明
●故障表示灯の点灯確認
・故障音響停止の操作
・原因の究明

⑥ 火災鎮火後の復旧操作

●火災鎮火確認後の復旧操作
●火災復旧スイッチの操作
●消火栓始動自己保持回路の解除操作

⑦ 蓄積機能の理解

●火災信号受信後の警報音と蓄積中緑灯点灯
●火災地区表示灯の点灯確認
●10秒後の蓄積中緑灯から赤色灯火へ

⑧ 故障状態の対応

●感知器線の異常
・断線表示灯・火災地区表示灯の点滅
・原因の究明
●予備電源の異常
・故障灯・予備電源灯の点滅
・原因の究明
●回路電圧の異常
・故障灯の点減
・原因の究明
●ヒューズの断線
・主電源用ヒューズの断線
交流電源灯の点滅
原因の究明
・予備電源ヒューズの断線
故障表示灯・予備電源灯の点滅
原因の究明
・地区音響用ヒューズの断線
故障灯の点減
原因の究明
・表示機電源用ヒューズの断線
故障灯の点減
原因の究明
・表示灯用ヒューズの断線
表示灯の不点灯
原因の究明
●交流電源異常
交流電源灯の点滅
主音響の鳴動
原因の究明

⑨ 試験の方法

●火災表示試験
●自動復旧および試験復旧
●予備電源試験

5.2 取得知識のまとめ

【前述の5.1 取得知識により】

  1. ① 監視状態の理解
  2. ② 動作フローの理解
  3. ③ 火災発生時の処置法
  4. ④ 火災音響停止の処置法
  5. ⑤ 故障・トラブルによる音響停止の処置法
  6. ⑥ 火災鎮火時の復旧の処置法
  7. ⑦ 蓄積機能の理解
  8. ⑧ 各種故障等の処置法
  9. ⑨ 試験の方法

以上の操作手順を理解することにより,自動火災警報設備システム全体を理解することができる。

6.おわりに

阪神大震災により,多数の尊い人命が失われるという大惨事が発生した。

火災統計からもわかるように,近年の高齢化社会への移行に伴い,火災事故による社会弱者(高齢者・乳幼児)の被災が増加の傾向にある。

消防庁は高齢者・子どもなど災害弱者を火災から守ろうと,広報・通達で,住宅用火災警報機器の設置の推奨・住宅用消化器の規格基準の見直し,地域防災教育の充実等を図っている。

本研究における自動火災警報設備模擬教材(シミュレータ)は種々の講習会提示用教材として活用できるものと思われる。

最後に,本教材の開発研究に(社)沖縄県消防設備保守協会事務局長をはじめ,ポリテクセンター沖縄の上原進先生から多大のご助言をいただいたことに感謝いたします。

〈参考図書〉

  1. 1) 消防設備六法(平成8年版),自治省消防庁予防課監修.
  2. 2) 消防白書(平成8年版),消防庁編集.
  3. 3) フェスク,(財)日本消防設備安全センター.
  4. 4) 警報設備,(財)日本消防設備安全センター.
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