熊本県では,これまで職業能力開発短期大学校の設立準備を進めておりましたが,本年4月に「熊本県立技術短期大学校」として開校いたしました。
私は,この3月,機械工学の教官として長年勤めておりました熊本大学を定年退官し,4月よりこの短期大学校の校長として勤めております。
本校は熊本県経済の浮揚と地域の活性化を図るため,産業の振興,とりわけ製造業において急速な技術変革に対応できる,高い技術の蓄積という大きな課題に応えることのできる高度な技能と技術を兼ね備えた若い実践技術者を養成し,地域の企業で即戦力として役立ってもらうことを期待して設置されたものであります。ちなみに,将来の産学官交流の便を考慮し,ハイテク企業の立地も予想される,熊本市の北側に建設中の第2テクノパークの中心部に建設されています。
熊本県では今まで,地元の大学から毎年多くの工学士が巣立っていますが,そのほとんどが県外企業に就職するという困った事態が長く続いておりました。最近はUターンで幾分か補充できるようになってきたものの,地元企業において若い生え抜きのエンジニアの確保は依然として難しいものがあります。本校の設立にはこのような背景があります。
したがって,この度の本校の開設は県民あげてのかねてからの悲願であって,ハイテクやソフト技術など新技術への取り組みと地域振興の絶好のチャンスととらえられ,大いなる期待が寄せられています。
それだけに,学生の教育を預かる私どもの責任は重く,いかにして,良い生徒を集め,特徴ある優れたエンジニアを育てていくかを日々模索しているところであります。
実際にどのような人材を目標に教育を進めていけばよいのか,これからどういう技術者が求められているかが大きな課題になります。巷間言われるように,熟練技能者の不足は熊本でも確かに深刻な問題でありますが,半導体関連の誘致企業等では,むしろ高度な技術者へのニーズが多いようにも思われます。
ここで,どのような人材が求められているかについて,自分なりにまとめてみると,次のようであります。
① 金型や機械部品の製作に関する生産技術,特に精密加工関係の実践技術者
② NC工作機械の操作に必要なソフト技術を身につけた技能者
③ 創造性豊かで新しい機械の開発に積極的に取り組んでいける人材(ベンチャー企業向き人材)
④ 新素材や新技術に柔軟に対応できる基礎学力(数学,物理,化学,情報等)を備えた人材
⑤ 生産業務の全システムのコンピュータ最適管理ができる実践技術者
⑥ 東南アジアなど国際的に活躍できる技術者
最後に,本校の具体的な教育方策として,今考えていることをいくつかあげてみました。
① 製造技術高度化のための徹底した技術指導
② ハイテクおよび情報技術の基礎教育の強化
③ 基礎科目ならびに実験,実習,卒研の重視
④ 教授陣の高水準の維持
⑤ 産学官共同短大教育支援システムの導入
⑥ 意欲ある生徒のための継続的な教育システムの検討
みなさんのご意見をお聞かせ項ければ幸いです。
まつお てつお
昭36 大阪大学大学院精密工学専攻博士課程修了
昭45 熊本大学教授(昭63工学部長併任)
平9 熊本大学名誉教授
熊本県立技術短期大学校勤務,現在に至る