• ポリテクカレッジ茨城(茨城職業能力開発短期大学校) 日浦 優*

*現ポリテクカレッジ群馬

1.はじめに

私がポリテクカレッジ茨城に来て4年が過ぎました。この4年間を振り返ると,本当の意味での物作りというものを,じっくりと学生が学べる授業は,卒業研究の時間しかないであろうと思いつつ,なぜそれが必須科目ではないのだろうと疑問を感じ続けてきました。

今回,卒業製作発表会にあたり,4年目で初めて充実した卒業研究ができたのではないかと感じています。プログラムの中身などは説明しきれないので,成果物の概要と発表会までのプロセスを少しばかり紹介できればと思います。卒業研究の進め方の1つとして参考になれば幸いです。

2.テーマの選定

私は卒業研究のテーマを決めるにあたっては,とにかく学生が興味を持って,最後までできるテーマを選ぼうと常々考えており,これまでもそうしてきたつもりです。今回は,学生と話し合った結果,学生のほうから茨城県の鉄道の案内を作りたいという要望が出てきました。

私の頭の中では,このような案内システムは,

① Windowsのプログラミングのよい題材である

② データベースの概念が身につく

③ 地元密着の題材である

などの長所がある半面,

① 市販品でよいものが,すでにある

② 茨城県内だけでは路線が少なすぎる

③ 2年前の卒研で茨城県の鉄道案内を作ったことがあり,簡単にできてしまう

などの短所も頭に浮かんできました。

そこで学生には,「何か別のもの」をと再考を促しました。再考の結果,やはり,やってみたいというので,次に考えたのがバス案内です。水戸駅からのバスは,鉄道に比べ路線数がはるかに多く,バス会社も数社乗り入れています。また水戸は城下町だったため市内の道路が複雑で,路線が入り組んでいます。パソコンで動くバス案内システムもあまり聞いたことがないため,卒業研究の題材としてはおもしろいのではないかと考えました。

3.現在の水戸駅バス案内システム

現在,水戸駅構内にはきちんとしたバス案内システムがあります(写真1)。

写真1
写真1

このシステムは,バス停や学校などの項目別になっているパネルが前面にあります。目的地には,あらかじめ番号が決められていて,その番号のボタンを押すとパネルの地図上の目的地が点灯し,必要な情報が印刷されるものです。実際に使ってみると,扱いやすさの面ではよいのですが,システム上どうしても大がかりになり,また,その場へ行かなければ情報が得られないなどの欠点もみられます。

そこで,もっと手軽に使えるように,パソコン上で動作するバス案内システムを製作することにしたのです。ゆくゆくは駅に設置したり,携帯式にするなどのことも考え,また電子技術科ということもあってハード的なものとして,タッチパネルを導入し,だれでも使えるような簡単なオペレーションを目指しました。

展示の際,質問が多かったので紹介しておきますが,タッチパネルは市販品で,6万円ほどで購入したものです。当初,パソコンのバスに何かボードをさすようなものをイメージしていたのですが,マウスとキーボードのコネクタに差し込むだけでよく,位置合わせはソフトで行うものです。また,使用した水戸の地図も,市販品の地図を画像ツールでつなぎ合わせて作成したものです。

4.バス案内システムの概要

今回のバス案内システムを作るにあたって,学生の意識を明確にするために,次のように目的を設定しました。

① Windowsでのプログラミング手法をVisual Basicを通して学ぶ

② データベース的な概念を身につける

③ プログラムの設計技術を学ぶ

④ 発表会の準備においてのプレゼンテーション手法を学ぶ

⑤ 地元密着の題材を行うことで,水戸の再認識を行う

今回Visual Basicを用いたのは,最近のプログラミング動向を考えたもので,画像情報を扱うのも簡単であることなどがその理由です。データベース的な要素が強いのでAccessを用いようかとも思ったのですが,私の好みもあり,また学生の勉強にもなると考えVisual Basicを用いることにしました。また,当初は,水戸市の学生がよく行く店などを写真入りで紹介しながら,そこに行くバスルートを表示することなども考えていたのですが,今回はそこまでできませんでした。

このシステムの特徴をまとめると以下のとおりです。

① パソコン上で動作する

② 簡単なオペレーション(最短ワンタッチで乗り場などがわかる)

③ タッチパネルとマウスオペレーションのいずれも可能

④ 音声メッセージ,文字メッセージで案内

これらを常に考慮しながら,バス案内システムを製作することにしました。

5.オペレーションの実際

成果物が文書ではわかりづらいので,実際のオペレーションに従って,動作を説明します。主に2通りの指定方法があります。

初期画面が図1のとおりです。1つめの方法は,目的地を地図上で,直接指で触れる方法です。

図1
図1

偕楽園に行くとします。地図上で偕楽園を指で触れると図2のとおり,情報画面ボタンが現れます。この時点ですでに,乗り場,発車時刻などの簡単な情報は文字情報でわかるようになっています。

図2
図2

さらに詳しい情報を得るためには,情報画面ボタンに触れます。すると図3のように,詳細情報画面が現れます。この画面では,実際のバスロータリーの地図で乗り場を示しており,印刷も行えます。

図3
図3

もう1つの方法は,場所指定方式です。これも偕楽園に行きたいとして説明します。

図1の初期画面から行き先案内ボタンに触れます。すると,場所指定モードになり,区分が現れます(図4)。偕楽園は,行楽地に区分されるので,行楽地ボタンに触れます。

図1
図1
図4
図4

行楽地の一覧リスト(図5)が出るので,その中から公園ボタンに触れます。

図5
図5

各公園が表示(図6)されるので偕楽園を選択すると,さきほどと同じように,図3の詳細画面が出ます。

図6
図6
図3
図3

6.プログラム区分について

プログラムを作るにあたっては,学生に責任感を持たせるために,企業のように担当を決め,それぞれ期限を設けて,期限までに各担当者が責任を持って製作するという形式を取りました。学生に対しては正規の卒業研究の時間を含め,空き時間を考慮に入れて自分で時間の管理をさせるようにしたかったのです。主な区分は以下のとおりです。

① データ構造と全体設計

② プログラム担当

③ デザイン・オペレーション担当

④ データ作成担当

⑤ ドキュメント作成

このうち,①については学生が行うのは無理と判断し,初期設計は私が行いました。②~⑤については学生の能力に合わせて,振り分けました。

このうち,始めに問題になったのは,バス路線の元データです。データはバス会社からいただけると考えていたのですが,諸事情からバス会社4社からすべてのデータをいただくことができず,茨城県バス協会にも全路線の詳細なデータは存在しませんでした。全停留所を4人で歩くわけにもいかず,結局既存のシステムを製作した東京電工さんにお願いして,茨城県バス協会の了解を取りデータを入手したのですが,全データがそろったのが1月の終盤になってしまったのです。プログラム自体はそれまでにある程度は作っていたのですが,実際のデータを検討した結果,そのデータ量の多さと時間の関係で,今回は範囲を水戸市内に限定することにしました。

7.卒業研究の様子

今回の卒研は,教官が私1人,学生は3人の計4人で製作しました。学生は,寮生が1人(当校の寮は敷地内にある),北に電車で1時間の通学時間が必要な学生が1人,そして通学時間がやはり1時間ほどかかる学生(女性)が1人です。

学生の時間割では,卒業研究の時間は週4コマあり,他の時間は夕方まで授業が詰まっています。テーマの選定が悪かったのか,人数が足りなかったのか,卒業研究の時間だけではとうてい終わらず,年が明けてからは,毎日8時,9時が続きました。その中でも学生は他の授業のレポートなどがあるために,なかなか進みませんでした。救いは,プログラム担当の学生が寮生であったために,空いた時間(土日を含めて)には,極力足を運んでもらい,製作が行えたということです。

結局,発表会の前日まで製作が続き,当初の目標どおりにはいかなかったものの,なんとか動作するまでにこぎつけました。

1月・2月はかなり忙しかったものの,この卒業研究発表会のおかげで,学生ともどもかなり充実した卒業研究になったのではないかと思います。

8.学生の反応

製作段階では,学生3人が示す興味の対象が異なり,もっと早い段階で各個人が興味のある分野(興味があっても,できるとは限らないが…)を見抜き,うまく作業を振り分けることができれば,もっとスムーズにいったのではないかと思われます。そう考えると学生の卒業研究をうまく行うには,教官が学生の興味の対象をうまく見抜いたうえで,優秀な管理職のように仕事を振り分けたうえで,すべてを任せるということが大事なのではと感じました。

今回は,1人はプログラミング自体に興味があり,プログラム全般を安心して任すことができました。そのため本人も卒業研究を終えて,Visual Basicについてはかなりの理解を示したと思われます。

残りの2人は,プログラミングがあまりわからなかったので,1人は駅のロータリーの地図を書いたり,アイコンツールでアニメーションを作ったり,水戸の地図を取り込んだりと,画像ツールの使い方を覚えることができたようです。もう1人は,莫大なデータを整理し,システムに合ったデータに直して,打ち込みを行うという単純作業に邁進してくれ,さらに,発表の資料作りでOHP原稿を作る際のグラフィックツール各種の使い方を体験できたことを非常に喜んでいました。

発表会については,いろいろ刺激があったようですが,カンコロジー大会を見て,ぜひやってみたいなどの感想を漏らしており,早い段階(例えば1年生のうちに)でこのような展示・発表会を見ることで,学生の意識高揚につながるのではと感じました。

発表については,校の代表ということもあり,かなり練習してきたので,大きなミスもなく終わり,よい経験ができたと,満足していたようです。約1名は質問対応を失敗したと,かなり落ち込んでいましたが…。

9.おわりに

今回,幸か不幸か発表会においての発表を私の研究室の学生が行うこととなったために,この4年間で一番充実した卒業研究を実施できたように思います。その反面,発表会を実施するにあたって,さまざまな問題点もあったと思われます。この第1回を教訓として,よりよい形で,発表会が継続していけばよいと思います。

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