2023年3号「技能と技術」誌313号
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図2 製作した空気圧シリンダによる残圧確認危険体感実習装置図3 軍手着用によるドリルへの巻き込み災害の実際ていたことに気付かなかったなど,不注意による事故も発生している。災害の減少傾向が鈍化している背景として,これまで熟練者に頼りきっていることが問題とされ,今後は作業者の経験不足を補い自分たちで危険を「想像」できることが重要と考えられる。安全に作業を行うには,安全装置などの設備的対策だけではなく,作業をする人の危険を察知する感性を養うことが大切である。最近では災害の怖さや安全行動の重要性を認識することを目的に,実際に巻き込み等の危険を体感する危険体感訓練が有効とされ,多くの実習機器・装置を用いての教育訓練が実施されている。そこで50社近く企業訪問を行い生産現場での安全教育の実態について調査を行った。多くの企業では挟まれや巻き込み災害はゼロにはならず,安全教育もOJTに頼るなど,計画的に実施されているとは言い難いことが分かった。注意喚起だけでは災害がゼロにはならず,工場長や教育責任者からは,従業員一人一人が自ら危険を判断し,人に伝えることができるスキルを身につけてほしいとの要望が高いことが確認できた。また実務に展開できる安全教育であれば積極的に講座に参加させたい,実体験による身体と目で覚える危険体感訓練教育は有効であるとの意見を伺うことができた。そこで安全行動のマンネリ化防止や若手社員の育成につなげ,災害“ゼロ”を目指すことを目的に,生産現場に適する危険体感装置を工場長や教育担当者からアイデアを頂きながら装置を考案することとした。自動化設備において空気圧シリンダ(駆動機器)に異物が挟まった際にラインが停止する(チョコ停)トラブルがある。空気圧シリンダ内部には圧力(残圧)があり適切に対応しないと異物を抜き取っ-15-た後に指を挟むなどの災害が起きる(図2)。残圧対策など基本を徹底して教えることが安全教育に有効であることが確認できた。手袋をはめた状態でボール盤やローラーなどの回転機に巻き込まれる災害事例は多い。そこで実際にボール盤作業中にドリルが軍手(模擬手)に巻き込みの危険体感訓練を実施した(図3)。作業を行う際にはドリルの摩耗状況の点検や,機器の固定方法などについてKYTを実施した。災害発生部門を調べた結果,製造担当者だけではなく,機械保全担当者がローラーのテンション調整やベルト,チェーンを交換する際に誤って巻き込まれる災害が発生していることが確認できた。これらの災害に対する危険を理解する目的で回転機による巻き込み危4.危険体感訓練の有効性5.残圧確認ミスによる危険体感実習6.回転機への巻き込みの危険性7.回転による巻き込み危険体感実習装置の製作

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