九州職業能力開発大学校 寺内 越三,大島 賢一2015年2月,政府は「ロボット新戦略」を公表した。新戦略では,生産年齢人口の減少を課題として,ロボットの創出や導入を担う専門人材育成策の検討が掲げられている(1)。また,2016年4月,厚生労働省は「第10次職業能力開発基本計画」を策定した。計画では,生産性向上に向けて,IoT,ロボット,ビッグデータ解析,AI等の技術進歩を背景に,人材ニーズの変化に機動的に対応する職業能力開発施策が求められているとある(2)。さらに,2017年6月,政府は「未来投資戦略2017」を公表した。戦略では,経済成長を実現するためには,第4次産業革命(IoT,ビッグデータ,AI,ロボット等)のイノベーションで社会課題を解決する「Society 5.0」の実現が掲げられている(3)。その後,2018年9月,経済産業省は「DXレポート」を公表した。レポートでは,企業は競争力維持・強化のために,AI,IoT,ビッグデータ等を活用してデジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation。以下,「DX」という。)を進めていくこと,そして,DX人材の育成・確保が求められていると報告されている(4)。また,2020年10月,政府は「2050年カーボンニュー トラル」を宣言し(5),2022年2月,経済産業省は 「GXリーグ」の基本構想を公表した。基本構想では,カーボンニュートラルを実現するためには,経済社会システム全体の変革(GX:Green -18-Transformation。以下,「GX」という。)が重要であると示されている(6)。このような社会的背景から,九州職業能力開発大学校応用課程生産システム技術系では,2018年度に「生産ロボットシステムコース(以下,「ロボットコース」という。)」を開講した。ロボットコースでは,生産システム技術系3科(生産機械システム技術科,生産電気システム技術科,生産電子情報システム技術科)から,5から6名程選抜された計15名程の学生が,1年生第3期の標準課題実習ロボット機器製作課題実習(以下,「G課題」という。)と,第4期の標準課題実習ロボット機器運用課題実習(以下,「H課題」という。)に取り組む。生産電子情報システム技術科では,H課題において,実習場を模擬工場として実習装置を活かしながら,毎年新たな開発テーマを設定してきた。テーマの設定においては,3か月という短期間で,IoT,AIの活用によってDXとGXを推進するシステム開発に取り組むことが課題であった。本稿では,2020年度から3年間に渡るH課題における開発テーマの設定経緯と,実習の成果物について紹介する。ロボットコースの開講に伴い,生産ロボットシステム構築実習装置が導入された。実習装置は供給ステーション,外観判別ステーション,機能検査ステーション,組立・仕分ステーションの4つから構成されており,電子回路基板をワークとしてステーション全体の連動運転を行う。生産ロボットシステ1.はじめに2.生産ロボットシステム構築実習装置の概要生産ロボットシステムコースにおけるDX,GXの推進に向けたIoT,AIの活用による標準課題実習の取り組みについて
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