2023年3号「技能と技術」誌313号
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図3 バケットツースアダプタ折損図4 作業機(アーム)亀裂態,各部装置の亀裂や折損等は日常点検でオペレーターの方々が見る項目であるためモニターには異常として表示はされません。つまり,日々の点検は,しっかり見て確認しなければ,機械に致命的な症状が現れて初めて気が付くといった事になりかねません。機械が致命的な損傷を受けてから修理を行う場合と,早期に軽微な異常に気付き保守・点検を行う場合では,その後に及ぼす影響は大きく異なります。例えば,致命的な損傷を受けた車両を修理する場合は,多額の修理費用以外にも代替機の費用や,特殊な機械であれば代替機がすぐに用意できないなど,休車による現場稼働率の低下に加え,生産・工期の遅れなど企業経営に多大な損失を及ぼします。以下の図3,図4に示す事例がその一つです。また,点検の不備等による災害もあってはならないことです。油圧ショベルの多くは地面下を掘削していますが,先端のアタッチメント(以下,ATT)を付け替えることで多種多様な使用方法を選択でき,中には人の頭の高さを超えるような場所を作業することも珍しくありません。代表的なものでいえば鉄骨解体や木造解体などがその例です。建設機械の作業機やATTが亀裂,折損,固定ボルトの緩み等で落下したり油圧ホースの劣化によりホースが破損したりする等の危険が潜んでいます。日常で実施している点検は機械の性能を維持するうえで大切であることはもちろんですが,オペレーターとして従事する人のみならず,現場にいる周囲の従業員の方たちへの安全の確保についても非常に重要な意味を持ちます。-3-これらのことから,建設機械を操作するうえで建設機械における保守・点検の知識や技能の習得は,安全上において最も重要であることは言うまでもなく,最近では建設機械を扱う企業からも「人の目や手による保守・点検」が実施できる人材の育成が強く求められるなどニーズが変わりつつあります。一方,人材育成をする側の体制を見ると,建設機械の保守・点検に関する技術習得を目的とした講習会等は民間企業を含め開催されていないのが現状です。このような背景を踏まえ,“点検の目的やポイント,装置の構造や仕組み,潤滑油の役割について理解できるような教材の開発”と,“保守・点検ができる人材育成”の両面から必要性を強く感じ,これまで自身が培った経験や知識を生かせないものかと考え,『建設機械の保全技術~現場で使える保守・点検~』という教材開発に至りました。一口に建設機械といってもその中身は非常に多くの種類の建設機械があります。このため,本教材では冒頭に述べた主要建設機械1,019,827台のうち表1に示す通り,建設機械の中でも約70%以上のシェアを占める『油圧ショベル』について構成しています。また,本教材では前半が学科,後半が実技の2部構成となっています。以下,教材の内容について概要を説明します。3.教材の内容

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