2023年3号「技能と技術」誌313号
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前述のとおり,本教材は在職者訓練受講者の方が本教材を使用し,自身の会社に戻ってから“振り返りができる”,“活用できる”という現場に即した教材です。そのため,点検に使用する器具や機器については,ホームセンター等の店頭に並んでいるような一般的なものを使用しています。教材の使用効果としては,点検機器や器具が扱えるようになるとともに,測定が必要な箇所について,測定結果から正常・異常の判断ができるようになります。また,各装置の役割や構造が理解できるため,どのポイントを点検すれば良いかという理解も深めることができます。さらに,もう一歩踏み込み,点検結果や測定結果から“すぐに修理や整備が必要なのか”,“計画整備ができるような時間的余裕があるのか”といった判断ができるようになる事に加えて,オイル,電気,空気,水,燃料の流れと働きを理解することで,現場で発生したさまざまなトラブル(不具合)事例から原因が推測でき再発防止策を講じることができるといった効果が見込めます。国内では少子高齢化と人口減少が進んでいます。特に建設機械を扱う現場への就職者数は若い世代を中心に減少傾向にあります。近年では,生涯現役社会の実現に向けて定年延長制度等の動きも全国的に見受けられるようになりましたが,どの業界においても労働力不足が深刻化しているのが現状です。問題解消の一手としてICT建機が導入されつつあります。ICT建機は建設機械オペレーターの担い手不足と危険作業を解消するうえで注目されています。一方でICT建機に対しての保全活動はどうなるのか?一般的な建設機械と比べ,保全活動を行う上で変更点はあるのか?-7-ICT建機になっても基本的には従来機と変わらない保全活動になります。ただし特有の装置が追加されていることからその部分において新たに知識を取り入れる必要があります。また,一部の機種ではありますが,電動で稼働する建設機械も市場に導入されつつあります。現状は有線による電源供給を行う有線式電動油圧ショベルとバッテリー駆動式があり,販売やリースが開始されていることから,今以上に電動化が普及していくものと考えています。これからの世代に向けて技能や技術の継承をどのように行っていくのかという課題も常について回ります。本教材を使用した在職者訓練において,受講した方々から「会社の人に教えてもらう機会がない中で,これまでなんとなく点検業務を実施していたが,受講して非常に役に立った」というようなご意見をいただいている一方で,「他(油圧ショベル以外)の建設機械においても同様の講習を開催してほしい」といった要望もいただいています。このため,他の建設機械においても一部保全技術の在職者訓練の取り組みを始めたところです。ICT建機の普及が今後ますます進むことが予測される中,「建設機械の操縦ができる」だけでは価値を見いだしにくくなってきています。機械の健康状態は誰かに管理してもらうのではなく「自分自身で管理できる人」へのニーズが高まっています。また,建設機械による労働災害は年々減少傾向にあるものの,残念ながらまだまだ多くの方が毎年被災されています。機械の性能を十分に理解し,労働災害防止の取り組みを確実に実施する事でさらなる減災が期待できます。今後は,建設機械を扱うすべての業種,そして建設機械オペレーターに従事される方々のために役立つ教材開発に引き続き取り組んでまいりたいと考えています。最後に,建設機械の訓練に携わる職業訓練指導員のすべてが本教材を利用し,建設機械オペレーター等の運転従事者への人材育成を行う一助となる教材になることを願っております。4.訓練効果と見込み5.今後の展開6.おわりに

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