2023年4号「技能と技術」誌 314号
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語源辞典で「技術」および「技能」を引いてみると以下のような説明となっている。「技術」・ 中国語の「技」(手のわざ)と「術」(すべ)の組み合わせが語源・意味は:理論を実際に応用する わざ「技能」・ 中国語で,「技芸」と「能力」の組み合わせが語源・意味は:技芸を行う うでまえどちらも中国語にその祖がある語,また その組み合わせであるところに外国由来の訳語に当てた匂いがする。では次に,古語辞典でそれぞれ何時ごろからある語なのか調べてみたい。「技術」・掲載なし「技能」・徒然草七十五段1)に掲載・意味は:物事を行うために身に着けた うでまえちなみに徒然草七十五段の掲載箇所は,天台大師智顗(中国天台宗の事実上の開祖)の主著である摩訶止観を引いているところなので,技能の領域2)が「技芸」であることがわかる。また「技術」は古語辞典に載っていないため,江戸期,室町期の辞書を調べてみる。江戸期・掲載なし室町期(時代別国語大辞典(室町時代編))・玉塵抄3)三十五に掲載・意味は:熟練した腕前玉塵抄三十五「技術」掲載部は「関」の解説箇所で「武芸ニスクレ奇特ナ技術ノアル者」とある。なお当該部分が「技ノ術」4)となっているものもある。ここで明治期に西洋の訳語5)で使われていないか明治のことば辞典を調べてみる。-19-「技術」・英和対訳袖珍辞書:art(文久2)・独文典字類:Kunst(明治4)・文典理学地学三書字類:art(明治5)・大全漢語字彙:技芸(ワザ)二同ジ(明治5)・漢語字林大成:テワザ(明治9)・新撰玉篇:ワザ,技芸モ同(明治10)・必携熟字集:ワザマヘ(明治12)・五国対照兵語字書:Technologie(明治14)・日本立志編字引:ショサ(明治15)・学校用英和字典:art(明治18)・ 漢英対照いろは辞典:技術,てのわざ,くふう,技術,わざ。Arts artifice(明治21)・言海:ワザ。学ビテ得タルワザ。(明治24)・ 日本大辞典:芸ノワザ(手業ナドニイフ)。 -「蒔絵ノぎじゅつ」。-「絵画ノぎじゅつ」。(明治26)・ 和英大辞典:The arts; a handicraft; Syn. Waza. (明治29)・新案帝国用文:うでのわざ(明治30)・日本新辞林:技芸(蒔絵の―)(明治30)・ことばの泉:学び得たるわざ。げい。(明治31)・新編熟語字典:ワザシカタ(明治33)・和仏大辞典:Arts industriels, metier(明治37)・新式以呂波引節用辞典:学び得たるわざ(明治38)・訂増中等作文辞典:学びえたるわざ(明治38)・ 新訳和英辞典:Art; a useful art; technique.(明治42)・ 辞林:理論を実際に応用する手段。理想を実際に表現する熟練。わざ「蒔絵の―」(明治44)・新式辞典:学んで得たるわざまへ,芸術(大正1)解説欄に明治時代には,「蒔絵の技術」のように手わざの意味で,今日の「表現技術」とか「科学技術」のような使い方はみえない。とある。「技術」は明治期に,artの訳語6)として使われることで,その語源と領域を再び確かめたと言えるのではないか。(その領域とは「手わざ」である)なお「技能」は掲載がない。4.語源辞典を入り口に

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