2023年4号「技能と技術」誌 314号
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十分に踏まえた支援が必要になる。すなわち,成人学習理論を提唱したノールズ博士は,成人の学びは課題に直面して初めて開始するという自己決定性を持つと説明している。初学者に向けた技術・技能を教え込むのとは異なり,生涯学習を前提とした「学び方の学び」や「自己決定的な探求の技能の学び」といったメタ技能を習得する支援と,学習とキャリア形成のための学習を融合する支援が必要となる。支援とは訓練生の立場に寄り添うことである。本稿では,支援力についてノールズ博士の対人支援力の基礎となっているロジャース博士のカウンセリング理論を援用する。マニュアル型の知識で対応できるタイプの業務であるか否かが判然としないまま,与えられた業務に取り組まざるを得なかった経験を持つ者は多い。業務を遂行するなかでは,既に習得した知識・技能を適用することの是非やタイミング,あるいはそれ以外の知識・技能を適用すべきか否かといった判断が頻繁に要求される。無論,こうした判断が求められるケースに直面するのは,未熟練者か習熟者かを問わないが,自らの業務に対する習熟度合いをはっきりと自己認識している者は少ない。企業における社員の技能レベルの研究では,成長の5段階モデル(図1)が提示されている。その中で,第4段階の中堅レベルの社員の割合は3割程度,第5段階の達人レベルは1割程度と紹介されてい る[3]。また3段階(取りあえず一人前)のレベルから中堅レベルへ移行するときに第1の壁があり,中堅から熟達者に移行するときに第2の壁がある。効果的に訓練指導を行うためには,訓練の受け手となる未熟練者がどのレベルなのかを考える必要がある。表1 ドレイファス5段階モデル[3]-26-支援において,指導員が訓練生に技能を指導する際の阻害要因として,指導員と訓練生の間の信頼関係不足が挙げられる。訓練では,まず,誰が誰に教えるのかといった関係が成立した段階,次に受け取った知識やノウハウを使ってみる段階,さらに受け取った知識や技能をどうやったら向上できるかを考える段階を経て,最後にこれまで持っていた技能と統合する段階に至る。人は,支援者との間に信頼関係を築けないと次のステップに進めなくなってしまう。また,せっかく支援を始めても,現場では当たり前に使う言葉が未3.成人学習者としての訓練生の理解4.最初の支援は信頼関係構築から

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