2023年4号「技能と技術」誌 314号
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職業能力開発総合大学校 職業能力開発指導法ユニット 新井 吾朗本連載は,職業訓練の授業を進める技術,つまり指導技術の近年の考え方を4回にわたって紹介します。いわゆる指導技術は,ICTを活用するような新たな手法を除けば,その根幹となる技術は枯れた,普遍的で,信頼できる技術といえます。その概要を示せば,授業を行う必要性から授業の目的を明確にし,授業の到達目標(学習者が習得する能力),指導項目を分析的に明らかにし,指導項目ごとに学習者に動機付け,提示,適用,評価を行うことで各指導項目の定着を確認しながら到達目標への到達を担保するという枠組みです。この枠組みの捉え方やそれぞれの段階に工夫や手法があり,その総体が授業技術となります。日本の職業訓練が「基本」としている指導技術は「職業訓練における指導の理論と実際」(以下「理論と実際」)に整理されているので参照してください。一般に技術はそれを利用する巧拙の違いはあるにせよ,その技術を使う限り,誰でも同じような成果を出せます。しかし使用する技術は使用者が恣意的に選択できるので,選択の結果さまざまな異なる成果を生み出します。「理論と実際」もさまざまな技術の中から,日本の職業訓練が求める価値の実現に必要な技術にしぼって紹介しています。職業訓練には他の制度に基づくさまざまな学習や能力開発の機会とは異なる目的があります。そこで本連載では,まず「理論と実際」で選択されている技術の背景を-29-明らかにしたいと思います。日本では教育や訓練(以下「教育・訓練」)の普遍的な定義が定まっているとは言えません。しかし,現象としてはどの教育・訓練にも次の2点が存在します。逆に言うとこの程度しか共通点はありません。① 教育・訓練を行う者と受ける者が存在する。② 教育・訓練を受ける者の能力が変化する。この共通認識のもとにさまざまな教育や訓練にどのような考え方があるのか,職業訓練ではそれらの考え方をどのように適用することが考えられるかを紹介します。2.1 工学的アプローチ・羅生門アプローチ教育学には,教育・訓練の最も基盤となる対極の考え方として工学的アプローチ(あるいは系統主義)と羅生門アプローチ(あるいは経験主義)があります。工学的アプローチは,ある事象を学習するためにはその事象を構成する要素のひとつ一つを学習することで全体を習得できるので,事象を構成する要素のひとつ一つを順に習得できるように体系的に学習を計画する考え方です。羅生門アプローチは,ある状況から学習することは人によって異なると考えて,さまざまな学習を可能とするための豊かな経験ができるように学習を計画する考え方です。授業の計画で,その授業を受けた学習者が習得す1.はじめに2.教育・訓練のさまざまな考え方指導技術の新展開 第1回教育・訓練のさまざまな考え方

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