2023年4号「技能と技術」誌 314号
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図1  工学的アプローチと 羅生門アプローチを取り持つ構成主義業活動の中で洋服を生産する際のサイズ展開を検討する(身長は正規分布していると考えて平均の前後のサイズ展開をする),所得に応じた経済支援政策を検討する(所得の平均は少数の高所得者の所得の影響で高めの値となり正規分布ではない。経済施策の対象となる低所得者の人数はより多い)などの平均が使われる場面と結びつけて学習することで,各種の場面でデータ群の特徴を表す道具として適切に平均を利用できるようになると考えられます。一部には構成主義を羅生門アプローチ・経験主義を説明する技術体系として説明し,工学的アプローチとは相いれないという指摘もあります。しかし,図1に示すように,平均の計算を現実に適用する場面を想定して,その場面で発揮する能力の全体を工学的アプローチで分析することで,学習の中心的な技術である平均の計算と,それを場面に適用する能力の構造を体系的に明らかにでき,これらの能力を体系的に学習する授業を計画できると考えられます。単純化して表現すれば,現実に適用する場面を想定せずに平均の計算手順だけを指導する計画が工学的アプローチ。企業活動の中で洋服を生産する際にサイズ展開を検討するなどの限定された場面でたまたま平均の計算の方法を適用する経験を期待するのが羅生門アプローチとなります。構成主義は使われる場面と,その場面に必要な技術を場面とともに学習できるように授業を計画することといえるでしょう。-31-3.さまざまな考え方の職業訓練への適用3.1 指導内容を職業の場面に適用することが前提さて,このようにさまざまな教育・訓練の考え方がありますが,職業訓練において工学的アプローチ,羅生門アプローチ,構成主義をどのように適用すれば良いでしょう。ここでは職業訓練に対する思い入れや印象ではなく,法,基準に基づく職業訓練の役割に立ち返りましょう。職業能力開発促進法(以下「能開法」)の第1条に法の目的が示されています。要約すると労働者が職業訓練,職業に関する教育訓練,技能検定を受けられるようにすることで,職業に必要な労働者の能力を開発・向上することを促進し,職業の安定と地位の向上を図る,とされています。こうした法の目的を見ると,職業訓練で指導する内容は職業の場面に適用することを前提に指導する必要があることがわかります。3.2 基準には職業の場面が記載されていない他方で,各訓練の課程で指導する内容は,能開法の施行規則(以下「施行規則」)が示す各訓練課程の基準と別表,職業能力開発総合大学校の基盤整備センター(以下「基盤センター」)がカリキュラムモデル,訓練基準として示しています。しかしそれらの別表,モデル,基準では,表1の施行規則別表,表2の基盤センターが訓練基準として公表している普通課程 訓練科目カリキュラム表に例示するように,各内容をどのような職業の場面で使うのかが記述されていません。科目名,科目の内容だけが示されています。

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