2024年1号「技能と技術」誌315号
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職業能力開発総合大学校 キャリア形成支援ユニット 上田 勇仁昨今,大学生を対象にしたリーダーシップ教育の事例が文系理系問わずさまざまな大学で報告されている。リーダーシップ教育が普及してきた背景には,大学の教育方針だけでなく,省庁や産業界からの要望が少なからず影響している。中央教育審議会の「学士課程教育の構築に向けて」で提唱された学士力では,知識だけでなく汎用的技能に加えて態度・志向性においてチームワーク,リーダーシップが掲げられており,学士課程教育において「他者と協調・協働して行動できる。また,他者に方向性を示し,目標の実現のために動員できる。」という学習成果の指針が記されている1)。また,経済産業省は,職場や地域社会の中で多様な人と仕事をしていくために必要な基礎力として社会人基礎力を提唱し,その能力の一部にチームワークを提唱しており2),各省庁から大学生に求められる学習成果の方針が示されている。大学生のリーダーシップ教育が普及している背景には,大学が各省庁や,産業界からの要望を踏まえながらカリキュラムや授業を改革したことが一因といえる。大学生におけるリーダーシップとは,どのような能力を指し示すだろうか。リーダーシップに関する研究は1900年からさかのぼることができるが,リーダーシップの理論はリーダーシップを求める時代や産業によって捉え方が異なる。石田はリーダーシップに関する研究を概観したうえでリーダーシップ-27-を「職場やチームの目標を達成するために他のメンバーが及ぼす影響力」と定義している3)。リーダーシップとは特定の役職や立場によって形成されるのではなく,目標を達成するための組織やチームに所属する全員が求められるスキルであると捉えることができる。リーダーシップと見聞きすると,他者に影響を及ぼす何か特別な能力を必要だと捉える人もいるかもしれないが,リーダーシップとは,組織やチームに所属する全ての人にとって必要なスキルである。大学生にとって社会人として働く上でリーダーシップに関するスキルを習得していくことで就職先の会社において他者と協力しながら目標達成に関与していくことができる。また,大学生生活においてもサークルやゼミ,アルバイト先でリーダーシップに関するスキルを取り入れることで,より充実した学生生活を過ごしていくことにつながる。それでは,リーダーシップとは具体的にどのようなスキルのことを指し示すのか。研究事例と合わせて紹介する。リーダーシップは「職場やチームの目標を達成するために他のメンバーが及ぼす影響力」と紹介したが,影響力につながる個々人のリーダーシップに関する具体的な行動指針については,さまざまな指針が示されている。1960年代に三隅が提唱したPM理論にはじまり,時代に合わせてさまざまな表現が1.はじめに2.リーダーシップに関する行動と教育方法大学生を対象にしたペーパータワーを活用したリーダーシップ教育の事例

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