2024年1号「技能と技術」誌315号
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す。職業訓練では特に,受講者が将来就く職業のどのような場面に授業内容を適用することになるのかを想定して,POCEが一貫するように授業を計画することがとても重要なのです。5.1 教材の意図を確認する前章で示したように,授業内容を適用する場面を想定することは,授業計画に決定的に重要です。しかし職業訓練では授業を計画する際に,だれも授業内容を適用する場面の想定を示してはくれません。そのようなとき,既存の教科書やテキスト,資料,課題などの教材にヒントを求めることになるでしょう。教材の解説に,その教材では指導項目をどのような場面に適用することを想定して選定,配列しているかの情報が記載されており,その場面が授業実施者の想定に近いなら,その教材はおおむね利用可能でしょう。しかし,場面の想定が大きく異なる場合は使えません。場面の想定が記載されていないなら,記載されている指導項目から場面の想定を推定し,使用の可否を検討する必要があります。5.2 使える教材・使えない教材教材には大きく,(1)指導項目を羅列する教材と(2)指導項目を学習する過程を組み込んでいる教材の2種類があります。(1)指導項目を羅列する教材は,単に各指導項目の解説が記述されているだけのものです。授業実施者は自身の授業計画に基づいて必要なタイミングで教材の該当箇所を利用して指導項目を説明します。このタイプの教材は利用範囲の広い教材です。教材の全てを指導する必要は無く,授業実施者の必要に応じて,必要な箇所を使えば良いものです。既存の教材が,授業実施者が計画する指導項目の多くを網羅していればその教材を利用できます。多少の指導項目が不足しているだけならその教材を利用し,不足分の補助教材を自ら作成することも考えられます。必要な指導項目の多くを網羅していないなら別-35-の教材を探すか,自ら教材の全てを作成することになります。(2)指導項目を学習する過程を組み込んでいる教材は,教材の中に指導項目を学習する順序や学習方法,課題が記述されています。課題を順にこなすことで,その教材が意図している能力を形成できるように記述されています。授業の計画が組み込まれているとも言え,便利な教材ですが,その利用には慎重にならなければなりません。その教材を学習することで育成できる能力が,授業実施者が意図している想定の場面をこなす能力と一致するのかを吟味する必要があります。一致するなら利用できますが,一致しないならその教材は全て使えません。学習過程が組み込まれているので,その通りに学習を進めなければならず一部を利用するだけでは授業進行のつじつまが合わなくなってしまうからです。5.3 教材利用にあたっての戒め教育・訓練の関係者の間には「教科書を教えるのではなく,教科書を使って教える」という戒めがあります。これは,授業内容を適用する場面の想定を曖昧にして安易に教材を頭から順に教えるようなことはしない。授業内容の適用場面の想定を授業実施者が明確にし,主体的に指導項目を設定し,必要な場面で教材を使って教えなさい。そうしなければ受講者に求められている能力を形成できないという戒めです。特に施設に代々受け継がれている教材や先輩から受け取った教材を利用する際,その教材が授業内容をどのような場面に適用することを想定して作成されたのかを十分に確認,推定し,自身の授業に利用できることを納得してから利用するようにしましょう。今回は授業の計画には授業内容を適用する場面の想定が必要であること。その想定に基づきPOCEを一貫させる計画が重要で,想定によって指導項目や指導方法は大きく異なること。既存の教材が授業実施者の意図に合うとは限らないことを紹介しました。次回は到達目標,指導項目の検討方法を紹介します。5.既存の教材を疑う

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